内なる「かたち」は気血を生みだす、つまり臓と腑

ここで「かたち」についてすこし考えてみましょう。

しかしその前に、気血はなにから作られるのでしょうか。

身体に取り入れられているのは、飲食物と大気です。ですから、それらが気血の構成要素と考えました。そして、それとともに親から受け継ぐものを精と呼んで、これも気血の構成要素に関わると考えました。

では、この気血はどこで作られ、どこにあるのでしょう。

それは身体の内部で作られ、内部ににある。つまり、この気血を作り、全身に分配・回収・処分をするものが身体の内の「かたち」でした。

さて、その内なる「かたち」には様々なものがありますが、

肝・心・脾・肺・腎・心包(しんぽう)を臓といい
胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦(さんしょう)を腑といいました。

肝> 血を蔵する。そして、全身の血量を調整する。
心> 脈拍力を蔵する。そして、全身に血を配る。
脾> 飲食から取り出したものを蔵する。そして、栄気をつくる。
肺> 呼吸から得られるものを蔵する。そして、全身の衛気を調整する。
腎> 親から受け継いだ気=精を蔵する。そして、原気をつくる。

つまり、臓とは、気血津液をつくり、蔵するのであり、更に、精神意志魂魄をも納めていると考え、生命活動とともに精神活動にも関わっていると考えたのです。

現代の医学でいわれる臓腑から考えますと、ずいぶん違っていますね。

 

また、腑とは気血津液に関わる場と考えました。

胃>  血をつくる場
小腸> 水をつくる場
大腸> 便をつくる場
胆>  精汁をつくる場
三焦> 水が運ばれる場
膀胱> 尿をつくる場

腑は、臓の働きが必要であり、その関連で機能を果たすと考えました。

 

 

 

外なる「かたち」と内なる「かたち」

ところで、外なる「かたち」とは、皮毛、肌肉、筋骨を指します。


これらは全身に見られる身体の構造ですが、それぞれの機能は蔵との関連があるとされました。

まず皮毛。皮毛は身体を覆うものであり、外部に絶えず接して防衛や体温維持などに重要なものとされました。その機能は特に衛気の作用とされ、その衛気の管理は肺によると考えられたことから、皮毛の状態は肺の変調との関連が大変に重視されました。

つぎに肌肉。肌肉は、まさに身体を形づくるものであり、栄養の供給状況の反映と観られました。そこで、その厚さについては、飲食から栄養の生成に関与する臓である脾の反映があると観たのです。

そして、筋に骨。筋は全身の関節を動かすものであり、動くためには血が必要で、その供給役を担う肝の臓との関連が大切にされました。また、骨は身体の土台であるとともに、内部に精と呼ばれる、気や血に変化するエッセンスが蓄えられているとみた。そこで、その精を管理する腎の臓と骨の関連が考えられました。

 

 


外と内の「かたち」をつなぐ「ながれ」、特に正経

ところで、次に「かたち」と「ながれ」の関連についてみてみましょう。

「ながれ」の通路のなかで特に正経は、全身や臓腑に流れ注ぐことでそれぞれを結ぶと考えました。

そして、やがてその臓腑と正経の結びつきがまとめられていきました。

肺 :手の太陰経  大腸:手の陽明経
胃 :足の陽明経  脾: 足の太陰経
心 :手の少陰経  小腸:手の太陽経
膀胱:足の太陽経  腎: 足の少陰経
心包:手の厥陰経  三焦:手の少陽経
胆 :足の少陽経  肝: 足の厥陰経

このことから正経は「ながれ」の本流と考えられ、内外の「かたち」、特に臓腑の治療に利用されていくのです。

正経の治療、つまり「ながれ」と「かたち」の調整

東洋医学の原典のひとつである「黄帝内経霊枢」に記載されている、正経が走行するところや関連する部位をまとめてみました。そうすると、現代の証候に関する治療を整理することができ、下記のようになります。

 

胸部の内部は手の陰経と関連する:
○呼吸器系は肺経(腎経も併用可)
○循環器系は心包経や心経(脾経、時に腎経も併用可)を使う

腹部の内部は足の陰経と関連する:
○中腹部の症状には脾経か肝経
○下腹部の症状には腎経か肝経を使う(任脈も併用)

頭部の感覚器に関連するのは手足の陽経が中心である:
○鼻の疾患には大腸経と胃経
○耳の疾患は三焦経中心と胆経
○眼の疾患には外側は小腸経・三焦経・胆経、内側は膀胱経・胃経を使う

頭部・体幹の外部(皮毛・筋)は足の陽経が特に関連する:
○顔や体幹の前面に関連する症状は胃経
○側面は胆経
○後面は膀胱経を使う

 

 

このように、東洋医学では全身の「ながれ」を整え、内と外の「かたち」を整えるとは、鍼灸を使って正経を治療することだったのでした。